睡眠の質を効果的に向上させる方法【睡眠負債編】
あなたは徹夜・夜更かしをしたことがあるだろうか。
もしあなたが、徹夜や夜更かしをしたことがあるならば、その次の日には睡眠の大切さを痛感することになることになるだろう。
特に、不眠症や入眠障害を患っている場合は、睡眠の重要性が痛いほどわかると思う。
逆に、健康的な睡眠を続けている場合は、睡眠の大切さを感じることは少ないことでしょう。(睡眠の大切さを知っているからこそ、健康的な睡眠をしている可能性もあるが。)
睡眠を怠る場合、あるいはその質が満たされない場合、その罪が翌日になって襲ってくることになる。その日が休日ならば、日中になっても寝ていることだってありうる。
加えて睡眠不足の人は、普段の状態に比べて注意力や集中力が驚くほど欠如し、活気を感じることのない一日を過ごすことになる。これは、誰もが経験した事がある現象なのではないだろうか。
根性で一晩を眠らずに済ますことはできるが、最終的には眠らずに過ごすことはできない。
一度でも睡眠を欠かすと、その後の生活習慣に重大な影響を与えることになる。
これらから、睡眠は我々において(勿論、人間だけではないが)重要な過程であることに違いないということが分かる。
中でも、一晩の徹夜によって狂ったリズムを、一日二日で完治するだろうと考えて軽視する人がいるが、それはとんでもない誤りなのだ。
今回はその理由と、睡眠不足をいち早く解消するテクニックを少しばかり、できるだけ短く述べていくことにする。
目次
不足分の睡眠を取り返すことは非常に難しい
睡眠負債という概念
この理屈を理解するには、「睡眠負債」という考え方を導入すると分かりやすくなる。睡眠負債とは睡眠をしていない状態の時に、この睡眠負債が徐々に溜まっていく。
そして、睡眠を取っていなければその分、睡眠負債が増え続けることになるのだ。
つまり徹夜明けの人、睡眠不足の人は睡眠をしていないが故に、睡眠負債を普段よりも多く抱えることとなり、一日中注意力や集中力が欠いた状態となっていると考えることができる。
この厄介な睡眠負債を返済するには、寝ることでしか解決しない。
しかし、睡眠負債は睡眠と覚醒の制御に大きく関わっていると言われており、犬を対象とした実験でも実証されている。
それが次に述べる「ツープロセスモデル」という説であり、1982年にボルベイとハムらによって提唱されている。
睡眠負債を理解するためのツープロセスモデル
睡眠負債は、何らかの物質が脳内に溜まることでことで、負債が大きくなっていると考えられており、その物質を睡眠物質と呼んでいる。
ツープロセスモデルは、睡眠物質の蓄積度と脳からの睡眠・覚醒信号の二つ要素を元に考える。次の図のように、覚醒中は睡眠負債が溜まっていき、睡眠をすると負債が減っていくというものだ。
この時に、比較的長時間の断眠を行った場合は次のような波形を取るようになる。
この場合、脳からの睡眠の信号を一度だけ無視しており、より多くの睡眠負債を溜めているため、普段のサイクルより多くの睡眠時間を取るようになる。
睡眠不足の状態で休日を迎えた場合に、日中まで寝ていられることが多いが、それは溜め込んだ睡眠負債を減らしている為であると考えられている。
これらが、睡眠負債に関する簡単な説明である。
徹夜明けは普段よりも長く寝ればいいのでは?
先ほど、睡眠負債は睡眠でしか解決しないと述べたが、返済しきれていない分の負債は普段よりも多めに睡眠を取れば解決すると思う人もいるかもしれないが、それがなかなか難しい。
つまり、睡眠不足による睡眠負債の返済は、スムーズにいかない事が多いのである。
主な理由は、睡眠負債は慢性的な要素を持っているからである。
もし、あなたの体は理性的に必要としている睡眠時間が8時間だとして、普段の睡眠時間が7時間だとすると、一回の睡眠で1時間の負債を抱えることになる。
この生活が長く続くと、1時間の睡眠負債を負うことが、慢性的になっていくというのだ。本来必要な睡眠時間は8時間なので、7時間の睡眠だけで問題ないように見えるが、実際にはパフォーマンスが低下しているのである。
休日になると、日中まで寝ているという人は多いと思うが、その時点で理性的な睡眠時間を確保できていないのである。
日中まで寝ていられる環境が整えば、慢性的な睡眠負債を全て取り払うことができるが、それでも3週間以上かかるといわれている。
休日を1か月近くもの間用意して、1日12時間も13時間も、あるいはそれ以上の間を寝ているなんてことは、可能ではあるが非現実的な話に過ぎないのである。
これらのように、睡眠不足による負債を返済するのは、簡単なようで難しいのである。
従って、睡眠の量を上げるよりも質を重視する必要があるが、睡眠の質は後述することにする。
睡眠不足がもたらす深刻で重大なリスク
ここからは、睡眠不足からくる注意力の欠如が、どのような危険をもたらすのかを議論していこうと思う。
非常に危険なマイクロスリープ
マイクロスリープという言葉を耳にしたことはあるだろうか。
マイクロスリープは、ほんの数秒の間か、あるいは更に短い一瞬の間に眠りに入ってしまうという現象のことで、その睡眠時間の短さゆえに「マイクロスリープ」とよばれている。
このマイクロスリープは、人間が強度の高い睡眠不足に陥った時に発生するのだ。
試験期間中の徹夜明けの試験中に、一瞬だけ寝てしまったなどという現象は、このマイクロスリープによるものである。
これが、車の運転中などの目が離せないタイミングで発生したら、大変なことになる。
もし睡眠不足の状態であっても、数回のマイクロスリープによってかろうじて脳の機能を維持が、出来ているといえるだろう。
思考力の低下
睡眠不足に陥ると、前述したマイクロスリープ以外にも思考力や判断力の低下、酷い場合は言語障害がみられるようになり、頭が冴えなくなる。
断眠実験は、昔から世界中で行われているがその多くは、僅か二日目から集中力の低下や体調不良の他にも、怒りっぽくなるといった症状がみられるようだ。
三日目以降になると、幻覚・妄想や強い疲労感、記憶障害、言語障害といった症状があらわになる。極度の断眠は精神疾患に近い症状まで出てくるのだ。
とはいえ、二日や三日の間連続して覚醒していることは、普段の生活では滅多に無いことだ。しかし睡眠不足が我々の生活に悪影響を与えるというのは、断眠実験の報告を見ても、これまでの経験を振り返っても、容易に理解できるであろう。
睡眠不足での運転は、飲酒運転並みに凶悪
これらの話をまとめると、睡眠不足による運転が、いかに恐ろしい行為かが分かると思う。
- 判断力が低下した状態で運転したらどうなるか。
- 運転中にマイクロスリープに陥ったらどうなるか。
- それを毎朝続けたら、いずれどんな目に遭うのだろうか。
時間を増やすのではなく、質を高める
前述したとおり、ここでは幾つか睡眠の質を高めるといわれている方法について、まとめることにする。
睡眠の量を増やすだけでは、なかなか返済できない睡眠負債も、質を高くすることで効果的に睡眠負債を減らすことができるのである。
太陽光を利用する
日光を浴びる
太古から輝き続ける太陽は、人間の睡眠に切っても切れない縁でつながっている。
その太陽をうまく利用することで、睡眠の質を大きく高めることができる。
具体的には、日中に太陽光を多く浴びて体内時計を刺激することで睡眠の質を高めることができるのである。
脳の視床下部にある視交叉上核は、その個体の体内時計を支配する役割を担っている。この視交叉上核が、体内の空腹や覚醒、睡眠、排泄といったサイクルを生み出すのである。
朝起きて、カーテンを開けた時に部屋に太陽光が入り込むわけだが、この時に太陽光は視床下部や眼球に作用して、その個体に覚醒の時間であることを知らせる効果がある。
即ち、朝起きてすぐに日光を浴びると良いのである。更に起床時に限らず、太陽光には日中に分泌されるべきホルモンを生成したり、体内時計の調節を促したりする働きがある。
これらから、日中に太陽光を浴びれば質の良い睡眠が保たれる。
皮膚にも光の受容体がある
寝るときは、完全に光を遮断したほうが眠りには良いというのは多くの人が知っている。しかし、皮膚にも光の受容体があることを知っている人は多くない。
目の網膜に光が入っていなくても、寝室に光があるだけで身体がその光を感知して、光に反応する臓器に信号が伝達してしまうのだ。
その証拠を裏付ける研究が存在し、被験者の膝後ろの皮膚の一部に光ファイバーによる光を当てて睡眠を取らせたところ(勿論、被験者の目には光は入っていない)、体温とメラトニンの分泌量に変化が生じた。このことから、光に反応する部位は網膜だけではないということが分かっていただけると思う。
寝るときは、寝室の光はできるだけ減らした方が良いだろう。
不快な朝を迎えない為の90分の法則
「前日に太陽光をしっかりと浴びたはずなのに、朝起きるのが辛い」なんてことがあるかもしれない。もしかすると、睡眠サイクルの途中で起きてしまった可能性がある。
レム睡眠とか、ノンレム睡眠といった言葉は、多くの人がどこかで聞いたことがある単語だと思うが、この睡眠の形態は90分ごとに変化してくる。
つまり、レム睡眠やノンレム睡眠の途中で起こされたり、アラームが鳴ってしまうと、気持ちよく起きることができなくなってしまうのだ。
従って、もし午後10時に寝るとするならば、90分周期で考えると7時間半を経過したころの5時30分ごろにアラームをセットすればよい。
足りないと思えば、これにプラス90分の7時頃にセットする。といった具合で、睡眠サイクルに支障をきたさないように起床時間をコントロールすると、不快に起きることは少なくなるだろう。
睡眠時は体温を下げる
入浴は、睡眠の2時間前
睡眠をする頃には、手足の血管が膨張し深部体温を下げようとする。こうすることで、スムーズに入眠できるのである。
入浴するタイミングは、この深部体温の調節にも一役買っている。入浴するタイミングは、睡眠をする約2時間前が理想的な入浴のタイミングであるといわれる。
入浴することで、一時的には体温が上昇するのだが、睡眠する時間帯になり体温が下がることで、温度差が大きくなる。この温度差が大きいほど睡眠に好影響があるとされている。
部屋は暑すぎず、寒すぎない位の室温
体温を下げたいからといって、部屋の温度を下げるのはあまり良い方法とは言えない。部屋が寒いと、手足の血管が収縮し体温が下がりにくくなってしまう。こうなると、効率的な放熱ができなくなってしまい、入眠に適切な体温をキープできなくなってしまうのだ。
体が火照っているときは裸足で、足が冷たいと感じるときは厚手の靴下をはいて血流を良くする。こうして効率的な放熱をして体温を下げると良いだろう。
参考文献
『SLEEP』ショーン・スティーブンソン著
『スタンフォード式 最高の睡眠』西野精治 著
『睡眠の科学』櫻井 武 著